2003年11月07日

週刊プラネテス#5 「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」

 最近、自分が死ぬことをよく考えます。いや、「死んじゃおう」とか、そういうことではなく、「死んだ後に面白い映画やらゲームやらアニメがたくさん出るんだろうなぁ」とか、「ワールドカップがまた日本でいつかはやるんだろうなぁ」とか。それと、「宇宙には行きたかったなぁ」と。プラネテスの世界は僕がちょうど100歳の話で、ということは作者の幸村誠が99歳の頃の物語なわけで、ちょっとだけ年齢が近い彼が何を意識してこの時代に設定をしたかを、少しだけ考えるわけです。

 それに何らかの答えが出るか否かは別として、そして、人にはそれが美しいかそうではないかは別として、「未来」というものが存在します。ほら、不意に今書いた文字は過去へと分泌されるわけだし、次の瞬間には今を過去にしつつ次の未来を今にしていくわけで、「子供」というのはつまり、その選択肢というポテンシャルがまだ多いということであり、大人というものはポテンシャル的にその果てが広く、大人は子供に、だとすればどう対応すればいいのか・・・ということは、子供のいない僕には知りようがありません。

 さて、今回は構成が面白かったので、時系列に書き進めることにしました。

 冒頭のユーリ。まだ彼の「宇宙を眺めている」エピソードについて、アニメ版ではふれられていない。表情や仕草が一つ一つ描かれ、「ただの記号」ではない「ユーリ」が描かれている。ユーリはほんとうに大事にキャラクターを構築そていると感じる。
 また、ここの音楽は素晴らしい。

 一日目のテロップ。そう、これは地球に近い場所で働いているハチマキ、タナベ、フィーが月に観光に行くという話だ。テクノーラのシャトルに乗っているということは、社員割引でも使っているのだろう。月への到着までは、三日。そう、これは三日間という期間の決められたクローズド・サークルの物語なのだ。実はこれがあまり生きていないことに、この物語の欠点が存在するのだが・・・。

 導入。無重力に不慣れな観光客が回転しながらタナベに衝突する。ここでの仕草はうまい、きっちりと、そしてさりげなく、財布を抜く絵を作っている。しかも、改めてみないと「スってる」ことがわからない。映像の勝利。またジャケットのポケットに手つっこんで財布入れてるんだよなぁ。「記念メダル」という観光名所の中であまりにモンドなアイテムを購入するタナベが僕は大好きです。

 「人に歴史ありですね、先輩」の台詞はどうだろう。宇宙船が展望モードへ変形。ああ、形が携帯電話だ。さりげなくリュシーがアテンダンスとして活躍している。

「だって悔しいじゃない!」の台詞で、月に心中しに着た家族のショット。ああ、いや、この舞台じみた状況説明はどうだろう。この家族のプロットをきっちりと丁寧に描いたらもっと面白かったんだろうけどなぁ。演技も下手です。父親の方はオタコンの中の人?

 女の人が襲われているシーン。ハチマキが狼男をノす。そして、ハチマキが結局狼男の代役をやる・・・という構成は、大河内が好きなのか。そうすんなり代役を引き受けるとも考えにくいんだけど、あっさり承諾しているところが、やはり大河内。

 シアとタナベの対面シーン。いやしかし、観光地でお金を入れないと双眼鏡が使えないのは世界の常識では。わりと軽いシーンなのですが、個人的にはタナベが「愛」という台詞を吐く人間であるということを、妙に意識するシーンです。

 ハチマキの代役シーン。というより、タナベの攻撃力とハチマキの攻撃力を比較した結果、やはりEVA能力上ではハチマキのほうが上なんだと感じた。

 撮影機材没収シーン。この「撮影に4人組」という構成が、水曜どうでしょうと同人数のユニットですな。カメラ兼監督が嬉野Dで、奥の眼鏡が藤村Dで、女優が鈴井さんで狼男が大泉洋だとすればぴったりです。

 さて、二日目。
 朝の煙草を吸うフィーの前を横切る、リュシーとシア。この日からプロットがいくつか平行するので、プロットごとに色を変えてお送り致します。
 
 エレベーターの中でシアがいなくなったことを会話する両親。ここでの台詞も陳腐。メタルギアなみに陳腐。監督もその陳腐さが判っているのか、後ろで流れる曲が妙に間抜けです。
 
 ハチマキ&タナベと両親がバッタリ出会うシーン。ここに予定調和を見るか、「あるよね、そんなこと」と呟くのかは任せる。ちなみに僕は、「そろそろあんまりだ」と呟きました。でも、この気軽になんでも「困った人を助けることを安請け合いする」ということは、タナベの中の基本姿勢なんだろうなぁと思いました。
 くるくる回転しながら上昇していくハチマキの姿は、実は妙に「いいなぁ」と思ってしまいました。

 シャトルを創作する夫婦。そこに、
 タナベの財布をスったスリ登場。華麗なステップワークでシャトルの中を駆けて行きます。ここで(たぶん)睡眠薬を盗まれます。
 さらに背後をコンパクトなカメラに持ち替えたどうでしょう班映画撮影隊が通り過ぎる。彼らは2日目にして撮影を開始しているので、最後の日にラストシーンを撮影したということにつながるのでしょうか。
 というわけで、ここで計4つのプロットのうち、3つを一瞬合流させています。
 
 さて、ハチマキとタナベがあっという間にシアを発見。二人で「いた!」と叫ぶのも、妙に使い古されている気がします。ここでシアが脱出ポッドに名付けた「カロリーヌ」という宇宙船の名前・・・ピエール・プロブストの「カロリーヌつきへ行く」ですか! うーん、この小道具はお見事。八匹の友達は誰なんだろう。黒猫はいるけれど。先日再販された名作絵本なので、皆様、是非。「じゃあお兄ちゃんは宇宙船持ってるの?」って台詞は、ハチマキにとっては痛いと思う・・・。
 夫婦も何故かここに。うーん、素晴らしき予定調和。わりと意図的に、「大人が子供に声の大きさで押さえ込もうとする」シーンを、罪悪感を込めつつ定期的に描いているシーンは、「シアへの死」に対する、上手い手法だと思います。それへの反応として、シアの「都合のいい、そして彼女が我慢している上で成り立つ『いい子』」が描かれています。
 
 アイキャッチ。あんまり触れる人もいないのですが、実はこのアイキャッチ好きです。僕も「惑う人」なので。
 
 いよいよ薬を飲もうとするシーン。しかし、薬はありません。もちろんスリにやられてるから。ここでもシアを声の大きさで押さえ込もうとする母親の姿が。

 「ヘヘヘヘヘヘヘヘヘ」と悪党っぽい声を上げつつ、トイレでスリが収穫物のチェック。銀色のケースで高そうなものと思いきや・・・お薬。もう一仕事に向かいます。もっとスリだってことが判らないようにしてれば、おもしろくなったんだろうなぁ。薬はトイレに捨てられ、あの家族はもう死ねなくなったのですが、それがスリの手によるものというのも、意図的なのかなぁという気がします。
 
 三日目。
 恋愛至上主義者にしてチェンシンとの結婚を密かに狙うリュシーが、操縦を交代して休憩に入ったチェンシンを巧みに自分の部屋に誘うものの、どうでしょう班撮影隊から押収したビデオに、タナベから財布をスるスリの姿が映っており、チェンシンはその検証に向かいます。リュシーの怒った顔劇ラブ。
 
 落とし物を捜しに夫婦が展望ラウンジへ。インフォメーションに訊くものの、やっぱり届いていません。シアが夫婦の元から離れ、デートしているハチマキとタナベのところに飛んでいき、ハチマキの汗くさそうなTシャツに飛び込みます。
 
 スリ捕獲失敗シーン。
 
 実は今回の話で一番好きなシーン。「おまえさ、なんで宇宙船欲しいんだ?」「だっていつでも宇宙に行けるもん。シア宇宙大好き!」の台詞にハチマキがハッっとします。そうだろ、宇宙が好きだから宇宙船が欲しいんだろ! と、ディスプレイの前で激しく頷いてしまいました。ちょっと泣いた。
 
 どうでしょう班映画撮影隊登場。さらにスリも乱入。チェンシンも乱入。
 
 チェンシンの「そんなことしたってどこにも逃げられないぞ!」は、実は密かに重い。しかしここで、どうでしょう班映画撮影隊が人質交換を持ちかけ、そこにタナベの「愛が無い」が。ああ、ここでの「愛が無い」の扱われ方は面白い。作品としてすっかり流されてます。
 
 ベンズでの解決方法も観たかったのですが、それはハキム編の楽しみにとっておきましょう。とにかくも、この後はわりとどうでもいい会話シーン。いやほんと、お昼にやっているボンクラ二時間ドラマ並。特筆したいところは、「やっぱり狼男はのびでいた」ということでしょうか。
 
 ただ、最後にシアが無重力になった瞬間にシアがフィーの胸を離れ、母親の元に行くシーンは素敵でした。
 
 エーデルさんが出なかったのがとても悲しかったです。

Posted by mondo at 2003年11月07日 14:08 | TrackBack
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